INTERVIEW 04

日本刀の伝統を受け継ぎ守る
刀工と村下(むらげ)

平田 祐平
平田 のどか

  • 夫婦二人三脚で唯一無二の刃物を作る

    「自分たちで1年ほどかけて、この仕事場を作りました」と語るのが夫で刀工の祐平さん。2019年、青梅駅から電車と徒歩で15分ほどの場所に平田鍛刀場は生まれた。現在170人ほどといわれる刀鍛冶はみな、同じ鋼を使って日本刀を作るが、平田鍛刀場のように自家製鉄した独自の鋼を使って日本刀や刃物を作る刀鍛冶はかなり珍しいという。そしてその肝心な鋼を生み出す職人であり、世界で唯一の女性村下(むらげ)が妻ののどかさんだ。「東京で、しかも自家製鉄で刃物を作っていることや、夫が刀工で妻が村下という組み合わせも珍しいようで、国内外から刀に興味のある人たちが遊びに来てくれます」と笑顔で語るのどかさんは、職人であると同時に3人の子の母親でもある。

    青梅の人のよさと歴史に導かれて

    のどかさんと出会った岡山県で13年の修行を積んだ祐平さんは、独立のため仕事場を探すことに。「火を使い、煙や音を出す鍛刀場を建てるのに住宅地は無理…。そんなとき昔からバイクを乗りに来ていた、青梅のこの場所を思い出したんです。でも誰の土地なのかがわからなくて(笑)。」 そこから始まった地主探しの旅は、予想よりも早く終わりを迎える。「周りの人に聞いてみたら、ほどなく地主さんに辿り着いて。みなさんとても協力的で、青梅の人のよさを実感しましたね。地主さんの話だと、昔はこのあたりにも山城があって刀鍛冶も住んでいたと聞き、これはもうこの場所に鍛刀場を作るしかない!と決心できました」と祐平さんは当時を振り返る。その一方で、岡山から移住することになったのどかさんの心境はどうだったのだろう。

    にぎやかすぎず・静かすぎない、心地いいバランス

    のどかさんは旅行が好きで、知らない場所に行くのが大好き。でも今回は旅行でも引っ越しでもない、定住覚悟の移住。西と東の食文化の違いなど生活面での不安が、正直あったと語る。「青梅の生活になじめるだろうかと思いながら住み始めてみたら、街すぎず・田舎すぎない青梅のバランスが心地よく、岡山の地元にも似ていて妙に落ち着きました。しかも、無人販売所で買える野菜が新鮮で安くておいしくて。自家製の漬け物とおいしい地酒がぴったりで、酒量が増えました」と笑顔がこぼれる。地元・岡山から遠く離れても、今はSNSでいつでも友人たちとつながれるし、自宅のご近所さんたちもみな親切で、「親切にされるとこちらも自然に親切になれる。そういう人たちとつながっていきたいですね」と語ってくれた。

    この土地とともに生きて、四季と遊ぶ

    刀工と村下という厳しくもやりがいのある職人の道を選んだふたり。1本の刀にかける張り詰めた緊張をほぐしてくれるのが、かわいい3人の子どもたちだ。「御岳山や多摩川がすぐ近くにあるので、休日は家族みんなで自然のなかで思い切り遊んでいます。暑い夏は、刀鍛冶の仕事もスローペースになる季節はほぼ毎日、子どもたちと川遊びですよ」と祐平さん。マイホームを手に入れ、自然と遊び、旬のものをいただく。季節を楽しみながら家族みんなで生きていきたい。ふたりが描く未来予想図は、青梅ならすぐにでも叶えられそうだ。

     

    Profile

    平田 祐平  |刀工
    平田 のどか |村下

    祐平さんは東京都小平市出身、30代。学生時代に励んでいた剣道を機に、刀鍛冶を目指し、備前長船の自家製鋼の名手上田祐定 刀匠に入門。2019年、青梅移住と同時に独立。のどかさんは岡山県出身、20代。祐平さんに自家製鋼を学び、世界唯一の女性の村下に。ふたりは3人の子どもを育てながら、自宅と仕事場を行き来する日々を送っている。祐平さんのお気に入りスポットは、自然豊富な「御岳山」と「多摩川」。写真が好きなのどかさんは、「青梅市吉川英治記念館」で撮影するのがお気に入り。

     

    取材:2022年8月

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