INTERVIEW 16

青梅で働き、暮らし、豊かさを知る
繊維メーカーの社員

坂本 瑞希
山下 智子

  • 地元出身者と地方移住者が出会う

    大学時代まで東北で暮らしていた坂本さんと、地元が青梅で現在は市外に住む山下さん。ふたりは青梅の繊維メーカーで出会った先輩と後輩だ。青梅で働くこと、暮らすことについて、地元出身者と移住者の目線にどんな違いがあるのか?それぞれの立場から見える青梅の魅力について話を聞いた。

    8年前、実家のある青梅市を離れ、市外へ引っ越したという後輩の山下さん。当時の職場に少しでも近い場所でひとり暮らしを始めることを決意した。しかし、青梅を出たことで、逆に青梅の魅力を再発見できたという。「週末は青梅のイベントに参加したり、ボランティア活動に関わったりするようになりました。そこで初めて小中学校が違う大人の友達ができたんです。不思議ですが、実家を出てからの方が、地元への愛着が強くなりました。」と微笑む。その地元愛を抱きつつ、昨年、故郷にある現在の繊維メーカーに転職。市外で生活をしながら、地元青梅で働いている。

    東北の美術大学で油絵を学んでいた先輩の坂本さん。就職活動を始めたとき、ものづくりに携わる仕事に就きたいと考え、さらに東京で新しい挑戦をしたいという思いがあった。東京の企業を探すなかで、製造と販売を自社で行う繊維メーカーの採用募集を見つける。「魅力的な企業だなあと思いながら、その地名に引っかかったんです。青梅ってどこ?東京に青梅市なんてあった?とGoogleマップで検索したことを覚えています。ギリギリ東京だ!と逆に興味が湧いて、応募を決意しました」

    最終面接で初めて訪れた青梅の街は、東北で思い描いていた東京とはまったく違う景色が広がっていた。キラキラした都会の東京ではなく、自然豊かな落ち着いた街並みが広がっていた。でもそれは坂本さんにとって好印象だった。東北を思わせるような自然に恵まれ、そこに暮らす人々もゆったりとした生活を送っている。急ぎ足で働く東京人のイメージは、ここにはなく、「ここなら、私もすぐに馴染めるかもしれない」と感じた。そして今、無事に同社の一員となり、入社から5年目の夏を迎えている。

    自然とともに働く、あたたかな職場環境

    WEBサイトやSNSを使って自社商品のPRを担当しているふたり。新卒採用で入社した先輩の坂本さんは、自然に囲まれた職場環境に驚いたという。「敷地内にサワガニやイノシシが遊びに来ることがあります。お昼を食べているときに、窓の外を何かが横切り、みんなで『今の何?』と顔を見合わせるなんてことも。これは青梅ワーカーにとって日常茶飯事ですね」と笑う。

    昨年入社したばかりの山下さんは、職場の仲間たちを“あたたかくて、穏やかな人たち”だと語る。「先日、野生のひな鳥が迷い込んできて、みんなで保護したんです。鳥に限らず、虫でさえも殺さずに逃がそうと、一体となって苦労しながら外に放してあげる姿をよく目にします。この自然に囲まれた環境で働いていると、そうした優しい気持ちが自然と育まれていくんだなあと感じます。青梅に流れるゆったりとした時間がそうさせるのか、社内でイライラしたり、ピリピリしている人がいないんですよね」

    自然に囲まれて働くことは、心のゆとりを与えるだけでなく、制作のインスピレーションにもつながっているようだ。「自社の商品はシーズンごとに新商品が出るのですが、色やデザイン、PR用の写真イメージを考えるとき、通勤途中で見た空の色や、鼻をくすぐる金木犀の香りなど、自然のなかで感じたことからインスピレーションを得ることもあります」と山下さん。クリエイティブな仕事をするなかで、閉塞感を感じることなく、季節や自然を身近に感じながら制作できることを、幸せに思っているという。

    週末はリラックスしたり、人付き合いを楽しんだり

    青梅らしい豊かな環境で日々働くふたりに、休日の過ごし方について聞いてみた。インドア派だという坂本さんだが、おでかけは気分に合わせて場所を選んでいるそう。「買い物や映画を見たいときは、電車で30分の立川へ出かけることが多いです。何でも揃う街にすぐ行けるのは便利ですね。もっと遠出したい気分のときは、上野の美術館へ。移動時間は少しかかりますが、乗り換えが少ないので意外と楽なんです。青梅に住むようになってからは、電車で1時間くらいの移動も長いとは感じなくなりました。始発駅だから座って行けるので、ぼーっとしたり本を読んだり、音楽を聴いているとあっという間です。都心に近づかない限り、車内も混んでいないので快適ですね」

    青梅市内では、木造映画館『シネマネコ』で単館系の映画を楽しんだり、向かいにある約100年前に建てられた大谷石造りのレストラン『繭蔵』で食事をしたりして過ごすとか。「地産地消の新鮮な野菜を食べると元気が出るんです。青梅市内での休日は、リラックスして過ごすことが多いですね。だいたいの場所に自転車で行けますし、特に不自由は感じません。ただ、坂道が多いので、脚力が強くなった気がします」と笑う坂本さん。

    市外に暮らす山下さんの休日はどうだろう? 「私はちょうど東にも西にも遊びに行ける場所に住んでいるので、銀座など都心に出かけることもあれば、青梅にも遊びに行くこともあります。 実際、青梅を離れてからの方が、青梅のイベントに参加する機会が増えたかもしれません。青梅大祭、青梅マラソン、納涼花火大会などが有名でお祭り好きな人が多く、団結力がすごいんです。出店が並ぶマルシェイベントも頻繁に開催されていて、フリーランスや個人事業主の方々が飲食店やクラフトショップを出店しているのを見るのが楽しいですね」

    大都市のように大規模に開発された街も魅力的だが、青梅では人と人とのつながりを感じられるのが好きだという。「『この味は、この人が作るからこそ』と感じることができたり、何度か足を運ぶうちに顔を覚えてもらえて、『元気にしてた?』なんて声をかけてもらえることもあります。青梅は本当に顔が見えるお付き合いができる街なんですよね」と山下さん。そうした地元の人との触れ合いに癒やされ、元気をもらいながら、充実した休日を過ごしている。

    下奥多摩橋からの風景(坂本さんお気に入りスポット|撮影・坂本さん)

    青梅市吉川英治記念館(山下さんお気に入りスポット|撮影・山下さん)

    青梅にある“豊かさ”とは?

    公私ともに充実した日々を送るふたり。地方からの移住者である坂本さんは、青梅でのこの5年間を振り返る。「東北から上京して、東北と同じように自然豊かでのどかな場所に移り住んだものの、私にとって青梅は最良の選択でした。東京の都心部で働いたり暮らしたりした経験がないので比較は難しいですが、遊びに行くときだけ都会に出かけるくらいがちょうどいい。暮らす場所は、自然豊かで静かで落ち着いたところが理想です。この静けさと穏やかさは、ほかに代えがたいもので、雑念にとらわれず、心地よく暮らせています」

    青梅で生まれ育った山下さんは、市外に暮らし年齢を重ねるなかで、この土地ならではの豊かさに気づけるようになった。「豊かさの基準は人それぞれで、都心での生活や高収入を豊かだと感じる人もいますが、年齢を重ねるにつれて豊かさは経済的な面だけではないと実感しています。以前の職場では残業が多く、自然を感じながら帰ることはできなかったけれど、現在の職場では定時に帰れるため、夕日を見ながら帰宅する時間的な豊かさがある。さらに、通勤で体力を消耗しないことも豊かさの一部だと感じています。青梅は利便性や経済的な豊かさを求める人には魅力がないかもしれないけれど、自然や時間、体力の余裕を大切にする人にとっては豊かな街だと思います」

    人生で大切にしたいことは何か? どんなことに豊かさを感じて生きていきたいか? もしふたりのエピソードに少しでも共感する部分があれば、まずは青梅を訪れてみるのもいいかもしれない。

    Profile

    坂本 瑞希 | 会社員

    青森県出身、20代。東北の美術大学を卒業後、2019年に青梅市へ移住。市内の繊維メーカーでWEB課で活躍中。お気に入りの場所は通勤途中の『調布橋』。青梅の四季を感じる景色が良く見える、隠れ癒しスポットだとか。

     

    山下 智子 | 会社員

    青梅市出身、40代。8年の市外生活を経て、2023年から青梅の繊維メーカーに転職し、WEB課で活躍中。おすすめスポットは『御岳山』と『吉川英治記念館』。御岳山は心身をリフレッシュできる場所で、吉川英治記念館は癒やしのサードプレイスとしてもっともっと知られてほしいと語る。

     

    取材:2024年8月

     

     

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