INTERVIEW 17

青梅で自然農法を楽しむ
自産自消ライフの実験家

内山 秀二

  • 自給自足の生活がしたい

    人生にはいくつかの節目がある。その節目を前にして、移住を決意する人も少なくない。今回の主人公である60代の内山さんも、そのひとりだ。技術者として長年勤めた会社を退職した後も、いくつかの職を経て働き続け、年金受給の年齢を迎えた。

    「移住のきっかけは、自給自足の生活に移行したかったから。年金をいただけるなら、挑戦できるのではと思いました」と内山さんは語る。2023年に移住を決意し、2024年には新天地での生活をスタートさせた。年金受給という節目を迎え、内山さんの移住計画はこうして動き出した。

    移住先は「青梅市」一択!

    多くの人は移住先をいくつか比較検討するが、内山さんは違った。「共通の趣味で知り合った仲間がいて、青梅市に住んでいたんです。その縁で遊びに来たことがあり、東京なのに自然が豊かでゆったり暮らせそうだと感じました」と内山さんは語る。

    都内では、なかなか味わえないあたたかな陽の光や広がる空、心地よく吹き抜ける風、川のせせらぎ、そして土の香り。五感すべてが喜ぶようなこの第一印象に加え、都内での仕事を続けるうえでも青梅市は便利であり、週に数回都内へ出るのにも好都合だった。こうして、移住先の候補は青梅市一択となったのである。

    移住・定住コンシェルジュとの出会い

    移住先を決めた内山さんの次なるミッションは、家と農地探し。農地付きの戸建て賃貸物件を見つけるため、WEBサイトの検索窓に「青梅 移住」と入力すると、「移住・定住コンシェルジュ制度」の文字が目に留まった。この制度は、青梅に暮らす先輩市民や移住者たちと直接話し、相談ができる移住支援サービスのひとつ。コンシェルジュの暮らしぶりや移住の体験談を聞くことで移住の参考にしたり、コンシェルジュを通じて青梅に暮らす人とつながるきっかけとなったりしている。

    内山さんは早速、市役所に相談を申し込み、移住希望の相談に合いそうな、野菜作りの経験があるコンシェルジュと面会することになった。こうして始まった最初のコンシェルジュとの出会いを皮切りに、内山さんは対面やリモートで合計3名のコンシェルジュと会話を重ねていった。

    人のつながりで見つけた憧れのマイホーム

    家探しを目的にコンシェルジュ相談後も個人的に対話を続けていた内山さん。「将来的に米作りがしたいので、畑や田んぼが近くにある賃貸の戸建てを探していました。しかし、空き家の戸建てはあっても“賃貸”の戸建てにはなかなか巡り会えず、もう見つからないかもしれない……と思い始め、賃貸アパートも視野に入れていたんです」。

    家は見つからずとも、2024年内に青梅市に移住することは内山さんにとって決定事項だった。青梅駅から4駅離れた羽村駅周辺でレンタル自転車を借り、自力で物件を見つけようと住環境のチェックも兼ねて青梅市内を走り回っていた。その本気が周囲の心を動かし、朗報をもたらした。コンシェルジュの紹介をきっかけに出会った、アキテンポ不動産事業を行う(一社)こーよ青梅から、「農地付き賃貸戸建てが見つかった」と連絡が入ったのだ。内山さんの真摯な姿勢が実を結んだ結果であった。

    現在の住まいとなっているその賃貸戸建て物件は、先約があったが、入居が急遽取りやめになったばかりの物件だった。運命的な出会いに恵まれた内山さんは早速内見に訪れた。築40年ほどの2階建て戸建てで、少し離れた場所には希望通りの畑も付いていた。さらに、この富岡エリアは米農家が多くいたが、近年では休田状態の田んぼも増えてきて、作り手不足という状況だった。これ以上ない条件に、内山さんは内見後、即答で入居を決めた。「半年かかりましたが、地元の人たちとつながったからこそ見つけられた物件だと思います。市役所やコンシェルジュのみなさんに感謝しています」と内山さんは語る。

    自然農というトライ&エラーを楽しむ

    2024年7月、内山さんの青梅市での生活が始まった。家の修繕作業と並行して取り組んだのが、以前から試してみたかった畑での自然農法である。「真夏の畝作りは、本当に大変でした」と語る内山さんの顔には、言葉とは裏腹に充実した表情が浮かぶ。自力で畝を作り、30種類ほどの種を買って植え付けた。健康や環境の観点から、自然農にこだわりたいという。

    内山さんは「生業ではなく自給自足のための農作業なので、いろいろな自然農法を試しているところです。まだ収穫量は自給に足りないですが」と笑みを浮かべる。ネットで容易に情報が得られるこの時代に感謝しつつ、トライ&エラーを楽しんでいる様子だ。

    畑には青々としたニンジンや大根の葉が風に揺れていた。この土地に適した品種を探るため、内山さんは複数の品種を植えて試している。「カブの苗が虫に食べられてしまってね……。ショックだけど、虫も一生懸命に生きているのだから」と、虫に負けずに育ったカブの苗を愛おしそうに見つめる。虫や草を敵としない自然農を実践するこの畑は、自宅から徒歩1分もかからない場所にある。毎日畑に通い、野菜の成長に一喜一憂しながら汗を流す日々は、移住しなければ味わえなかった“幸せ”をもたらしている。

    安心感に包まれた穏やかな暮らし

    移住から4ヶ月ほど経過した現在、内山さんに青梅市の印象を尋ねてみた。「心や生活にゆとりがあるせいか、話しかけるとすぐに親身になって答えてくれる。例えば『こんな人を知らないか?』『こんな道具を持っていないか?』と尋ねると、すぐに人と人がつながり、解決に至る。何か困ったら、まずはご近所さんに聞いてみる! これが一番の近道なんです」。

    また、親身になって動いてくれるが、決して過剰に関わることはなく、そこに東京らしさも感じるという。新参者を受け入れる度量、いつでも相談にのってくれるゆとり、そしてさりげなく見守ってくれる優しさがここにはある。知らない隣人に囲まれて暮らしていた都内での生活と比較すれば、青梅市での暮らしは間違いなく、圧倒的な安心感に包まれていると教えてくれた。

    Profile

    内山 秀二 | 自産自消ライフの実験家

    青森県出身の60代。次男として生まれ、就職のために東京へ。技術系の会社に長く勤め、60代で退社。年金受給年齢を機に移住を考え、2024年7月から青梅市在住。お気に入りの場所は、家からすぐの畑と、将来的に米作りを目指している近所の田んぼが広がるエリア。田んぼの脇には川が流れ、近くには山もあり、心落ち着く里山の風景が広がっている。

    取材:2024年11月

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