INTERVIEW 09

移住の決め手は人の温かさ
中学校講師

鈴木 あゆむ

  • 直感で決めた青梅への移住

    「暮らしたい暮らしをしよう」。IT企業に勤め、渋谷駅から徒歩圏内の場所に住んでいた鈴木あゆむさんは移住を決めた。きっかけはコロナ禍。リモートワークを余儀なくされたが、「ワンルームに篭りっぱなし。たまに歩いて公園に行くだけという生活を送っていたので、5.5畳の空間から抜け出したいと思って……」とその理由を語る。

    自然に触れたい気持ちが高まり、ふらりと日帰りで青梅を訪れた鈴木さん。青梅駅に降り立ったときに目についたのが、駅員が卒業する学生に向けて書いたメッセージだった。「それを見てすごく温かいなと思ったんです。もうなくなってしまったのですが、そのときに入ったハンバーガーショップの店員さんの接客も素敵で。姿が見えなくなるまで頭を下げていて、ここはすごくいいところだなと思ったんです」。そして、直感的にこの街に住むと決めたのだという。

    千葉の実家へ日帰りで行くことができ、移住当時は渋谷のオフィスへの通勤に加え非常勤講師の仕事もあったため、青梅の立地は魅力的だった。瀬戸内や四国、沖縄移住への憧れはあったが、「まだそこまでの勇気がなかったということかもしれません。今も移住をしたというよりは引っ越したという感覚なんです。まだ独り身で身軽だったのもあるんですけど、こんなに長く住むつもりも本当になかったんです」と移住3年目を迎えた鈴木さんは笑った。

    「住む」から「暮らす」へ

    鈴木さんが移住に際して重要視していたのは、住んでいる人の雰囲気やオープンな街かどうか。「初めてひとりで居酒屋に入ったとき、隣に座ったおじちゃんが『青梅に引っ越してきた20代の女の子なんだって。今日初めて飲みに来たんだって』とママに紹介してくれたんです。そのまま居酒屋をはしごして案内してくれました」。そんなエピソードを持つ鈴木さんだが、ひとりで飲食店に入ると必ず誰かに話しかけられるため、多くの人とつながることができより暮らしが楽しくなっていったという。また、若い人が元気かどうかも気になっていた点。「地元の若い人が夢を持っているか、前向きなかどうか。街の未来に対して、愚痴を語るのではなく前向きな人と関わりたいと思っていました」。実際、カフェなどで出会った若い人たちとは、将来どうしていきたいかという話で盛り上がることも多いのだそう。

    以前は隣人の顔もわからないような状態で、人とのつながりは皆無、家と職場の往復をするだけの日々を送っていた鈴木さんが青梅で得たものは「暮らし」そのものだった。「広告や装飾で感じていた季節の変化をリアルな四季折々の自然の中で気付くようになり『住んでいる』から『暮らしている』と感じられる生活になりました」。

    そんな季節の変化を感じるときが鈴木さんの幸せのひとつでもある。ほかにも、祭りや行事の前後の浮き足立った雰囲気や窓についたヤモリを発見したときなど日常のなかの出来事ばかり。「おじいちゃん、おばあちゃんが多いので、席を譲ったり狭い道で通るのを待ったりして『ありがとう』と言ってもらう機会が多いのも幸せです」。

    「おへんなし」にも頼る子育て

    鈴木さんは現在、平日は中学校に講師として勤務し、休日には家族で川やカフェを訪れ、フィールドワークをしながら過ごす。移住してから3年の間に、転職、結婚、出産とライフステージの大きな変化を経験し、さまざまな場面で青梅市の制度やサービスを利用してきた。パステルアート講師の資格を持っているため、個人事業主として創業支援センターに相談に行ったり、S&Dたまぐーセンター(文化交流センター)で部屋を借りて作業をしたことも。今は、子育て支援センターやS&Dたまぐーセンターの子育て広場を利用している。「いろいろなおもちゃが置いてある上にちょうどいい混み具合なので、持ち物の準備もせず、人混みや電車の乗り継ぎという体力を使わずに、ふらっと行って遊べます。空調が整った場所だけでなく、川などの自然もあり、無料で遊べる場所が多いのはありがたいですね」

    おさがりをもらったりご飯のおかずを分けてもらったりするなど、子育てにおいても頼れるところは街の人の温かさに頼っている。頼まれてもいないのにいろいろとやることを指す「おへんなし」という青梅弁があることも教えてくれた。「合理性や利益を顧みず、放っておけない優しい人が多くて、おせっかいと気遣いのいい塩梅で見守って助けてくれる文化があるなと思っています。お隣さんもすごくよくしてくれるし、わからないことあれば全部教えてくれます。でも、お節介はするけれど干渉はしてこないんです」。そんな見守られているような距離感が居心地の良さにつながっている。

    「移住」の先にある暮らし方

    これからのことについて、鈴木さんは「風土」という言葉を使ってこう語ってくれた。「土地に根付き何年もかけて耕し良い土をつくる人がいて、そこに外から良い風がふくことでその場所の風土が生まれるという考え方が好きなんです。そういう意味では、私は移住者なので良い風でありたいなと思っています。娘も生まれ、これから家族としては土になっていくんだなと思うと、いい肥料と混ざり合っていきたいですね」。

    この青梅の地に暮らし始めた身として、暮らしと文化の継承を担いながら、青梅で育つお子さんと一緒に季節の移り変わり、時代の移り変わりを体感していきたいという。青梅宿アートフェスティバルというお祭りもこの3年間は楽しむ側だったが迎える側もしてみたいのだそう。

    しかし、鈴木さんは青梅に「ずっと住む!」という熱い思いを抱いているわけではない。心地のいい空間にアンテナを張って過ごす生き方をしていたら、青梅が実家のある街以外で一番長く暮らす場所になっていた。そんな鈴木さんからの移住を考えている人へのメッセージは、「新しい時代の生き方と自分らしさ、そして街や文化の豊かさを感じられるこの街に、まずは数日間滞在してお気に入りの過ごし方を見つけてほしいです」。鈴木さんのように気軽に訪れて、ピンッ!ときたら一歩を踏み出してみるのもいいかもしれない。

    Profile

    鈴木 あゆむ | 中学校講師/パステルアート講師

    千葉県出身、30代。2021年に移住し、現在は夫と0歳の娘と一軒家に3人暮らす。お気に入りのスポットは、「沢井から御岳までのハイキングコース」「釜の淵公園」「青梅駅周辺のカフェ・飲食店」。歩いていると必ず素敵な知り合いに会える点もお気に入り。教育に携わっているため、子育て世代はもちろん、街の人とイベント、移住を希望している人などをつなぎ、新しい発見や創造をしていきたいと思っている。

    取材:2023年11月

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