インタビュー
INTERVIEW 21
青梅と世界をつなぐ
エンタメビジネスの起業家
レニオ・トリスタン
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日本への憧れと移住の決意
フランスで中学生の頃、アニメ『鋼の錬金術師』を見たことがきっかけで、日本に興味を持ったトリスタンさん。調べるうちに文化や歴史にも惹かれ、自然と「日本で暮らしたい」という思いが芽生えた。「アニメをきっかけに、日本を深く知るようになりました。いいところも悪いところも含めて、日本が大好きになっていました」。大学時代に日本に留学し、その魅力を肌で感じた後、帰国しても気持ちは変わらなかったという。「帰りたくないくらい日本が好きになって、帰国後もずっと日本のことを考えていました。9か月後には再び日本に戻ってきたんです」。
その後、日本の企業で経験を積み、2024年に合同会社HAGURUMAを設立。アニメなどエンタメ業界の知見と語学力を生かし、日本企業の海外展開や海外企業の日本展開のほか、アバターを使って動画やライブ配信を行うVTuber(ブイチューバー)の世界発信に力を注いでいる。
自然と利便性を求めて選んだ青梅
青梅市を新たな拠点に選んだ理由は、自然豊かな環境と都心へのアクセスのよさにあった。エンタメ業界特有のにぎやかさから離れ、落ち着いて生活できる場所を探していたという。
「業界の華やかさやエネルギッシュな部分に疲れてしまうことがあって。だからこそ、家は静かにリラックスできる場所にしたかったんです」。中央線沿線で物件を探し、青梅市に出会った。奥多摩や八王子なども候補にあがったが、外国人が借りられる物件が少なく、探すのに苦労したそう。「なかなか借りられる物件が見つからなくて……。でも今の大家さんと直接話せる機会があって、理解してもらえたんです。大好きなバイクを置けるガレージ付きの一軒家だったこともあり、青梅に住むことになりました」。
1階をオフィス、2階を住居に分けられる可能性があると考え、2階建ての一軒家を選んだという。仕事と生活をうまく切り分けられたり、将来的に社員を招くことができたりするのでは?と期待している。
青梅での仕事と暮らし、そして人とのつながり
エンタメ業界で働くトリスタンさんは、青梅市から都心へ頻繁に通っている。インタビューをした週だけでも4回ほど都心へ足を運び、仕事をしたという。「中央線に乗れば1時間ほどで新宿に着くので、アクセスはとても便利です。海外展開のコンサルティングやVTuberのマネジメントなど、企画書作成からイベント運営まで幅広く手がけているため、リモートワークもできますが、やっぱり対面でないと話が進まないこともたくさんあって」。
オフの時間は少ないが、時間が空いたときにはバイクで西多摩エリアをツーリングして気分転換することも。「青梅は自然が豊かで、ツーリングには最高の場所です。ただ、今は起業したばかりで休みがほとんどないので、仕事をしていたほうが精神的に健全でいられるかな(笑)」。
そんなトリスタンさんが地域に馴染むきっかけになったのが、青梅駅前のカフェ「喫茶ここから」だ。フランスから訪ねてきた友人たちが街を探索し、偶然この店を見つけて案内してくれたことがきっかけだった。「たまたま入ったお店だったんですけど、店主さんや常連のお客さんたちとすぐに打ち解けました。ここで「武州青梅金刀比羅神社」に初詣に誘ってもらい、巫女さんに祈祷してもらったりして、本当に楽しかったですね」。このカフェで、地域の人とのつながりが生まれた。その縁で、学校で英会話やエンタメ業界の話をする企画について相談し、地域とのつながりをさらに広げようとしているのだそう。「青梅の方々は温かくて、相談すると力になってくれるんです。「喫茶ここから」は、僕にとって出会いの場であり、地域とのつながりを作ってくれた大切な場所です」
青梅の味と人の温かさに惚れる
移住してまだ日が浅いものの、青梅の魅力をすでに感じているトリスタンさん。特に食へのこだわりが強く、青梅の飲食店を大いに気に入っている様子。「青梅にはおいしい店がたくさんあって、本当にうれしいです。特に和田町の吉野街道沿いにある「ナカガワ☆スエ食堂」は最高!テレビに紹介されたので、最近はなかなか入れなくなってしまいましたが、それでもやっぱり食べに行きたいお店です。お気に入りは和牛ステーキですが、どれもおいしくて、店主のおじさんが本当にいい人なんです! みんなにぜひ行って食べてほしいです」。一見入りにくい個人店も多いが、今ではネットで店内やメニューを確認できるため、安心して入れるようになったという。
「食べたあとに店の人とゆっくり話すことも楽しいですね。みんな心に余裕を持っているから、気軽に話しかけてくれる。それが本当に温かい」と語る。青梅の個人店の多さと、その良心的な価格設定にすっかり魅了されているトリスタンさん。おいしい料理だけでなく、店の人々との交流が、青梅をさらに特別な場所にしているようだ。
グローバルな視点で地域に貢献する
最後に、青梅を舞台にした今後の展望を聞いてみた。「青梅でのフリーの時間を地域貢献に使いたいんです」と語るトリスタンさんは、特に教育分野に対する熱意にあふれている。学生時代、勉強はそんなに好きではなかった自分が日本のアニメやエンタメに出会い、それらを楽しむことで今に至ったという経験から、同じように感じている子どもたちへまずは楽しむことの大切さを伝えたいという。「勉強への意欲がないのではなく、ただ自分の興味を引くものに出会えていなかっただけ」と振り返り、英語教育に関しては、テストの結果だけで苦手意識をもつことなく、子どもたちには会話を楽しむことを大切にしてほしいと語る。「英語を実際に使ってまずはコミュニケーションの楽しさを感じてほしい。それがエンタメ業界にいる自分にできる地域貢献だと思っています」。
また、エンタメ業界に精通しているトリスタンさんは、学生たちとアニメやVTuberの話ができる場を作りたいと考えている。「自分と同じようにアニメなどエンタメに関心を持つ学生たちと活発に交流する機会がもっと増えるといいなと思っています」。自分の仕事が影響しない範囲で、エンタメ業界や言語に関する活動を通じて地域貢献できれば理想的だという。
さらに、VTuberを活用した英会話レッスンの提供など、ユニークなアイデアも次々に浮かぶ。トリスタンさんは、学生たちが興味を持てる形で英語を学べる機会を作りたいと考えている。「自分だからこそできることを地域に提供できたら、うれしいです」。過去には、学校や幼稚園に直接提案し、実際にいくつかの学校と関係を築いてきたというトリスタンさん。今後も地域貢献に積極的に取り組み、青梅の教育に新しい可能性を広げていきたいと話してくれた。
Profile
レニオ・トリスタン | 起業家
フランス出身、30代。2012年に来日し、大学時代には日本への留学を経験。その後、エンターテインメント業界でキャリアを積み、現在は合同会社HAGURUMAを設立。VTuberのエージェント業務をはじめ、日本企業の海外展開支援や欧米企業の日本進出支援など、グローバルな視点で事業を展開している。2024年4月に青梅市へ移住。お気に入りの場所は、通勤路にある「鮎美橋」。多摩川の清流と緑が織りなす景色が心を癒やしてくれるという。また、駅前のカフェ「喫茶ここから」は、地域に溶け込むきっかけをくれた大切な場所だ。
※取材:2025年1月