INTERVIEW 25
増田 貴元
増田 亜矢子
都内で働きながら、多摩川のある暮らしを選んだ増田貴元さん。2021年に世田谷区から青梅市へ夫婦で移り住み、現在は新町エリアを拠点に生活している。平日は会社員として働きながら、週末は川へ向かう。そんな貴元さんの暮らしには、常に水辺とともにある時間が流れている。
都内のIT企業に勤める一方で、もう一つの拠点は御岳の多摩川にある——。貴元さんは、そんな二つのフィールドを行き来する社会人アスリートだ。会社員として都心に通勤しながら、週末には御岳エリアでリバーガイドやラフティング競技の練習に取り組んでいる。
現在は同社でカスタマーサクセスの仕事を担当。顧客企業がサービスを活用できるよう、導入支援や運用の伴走を行っている。勤務先は都心だが、青梅からの通勤にもすっかり慣れたという。「通勤は片道2時間くらいですが、グリーン車に乗れば仕事の準備に充てられる時間になります。メールを整理したり、本を読んだり。むしろインプットの時間として使えています」。
そんな平日の生活とは対照的に、週末の舞台は御岳の多摩川。ボートを川に浮かべ、競技に向けた練習やリバーガイドとしての活動に向き合う。学生時代にラフティングと出合って以来、川のある生活は、貴元さんにとって欠かせないものとなっている。

貴元さんがラフティングを始めたのは大学生の頃。探検部の活動をきっかけに、多摩川での川下りに出合った。社会人になってからは忙しい日々が続き、次第に川から遠ざかっていった。営業職として働き、平日は仕事に追われる毎日だった。
そんな時期、ラフティング競技へ打ち込むきっかけとなった恩師・柴田大吾さんが、御嶽駅近くに「みたけレースラフティングクラブ」を立ち上げた。そのタイミングで久しぶりに多摩川を訪れることになった。
久しぶりに訪れた御岳で、改めて川の魅力を実感したという。「当時は仕事中心の生活で、土日はただ休むだけという感じでした。でも久しぶりに御岳に来てボートに乗ったとき、すごくリフレッシュできたんです。ここが自分の拠り所だと感じました」。
「みたけレースラフティングクラブ」には、柴田さんをはじめ、仕事と趣味を両立しながら自然を楽しむ人たちが集まっていた。そうした先輩たちの姿を見て、貴元さんは「仕事だけで人生を完結させなくてもいい」と思えたという。

2020年に始まったコロナ禍は、多くの人の働き方や生き方を変えた。結婚から4年。ふたりもまた、その変化の中で移住を考え始めた。当時は世田谷区に住んでいたが、将来の暮らしを見据え、住環境を見直すことにしたという。「子どもができたときに、世田谷で広い家に住むイメージがあまり湧かなかったんです。同じ家賃でも、もう少し広い家に住める場所を探そうと思いました」。
20代から御岳に通っていた貴元さんと、その多摩川への思いを自然と共有していた亜矢子さん。移住先は、次第に多摩川沿いのエリアへと絞られていった。物件探しで活用したのが、Googleストリートビューだったという。「僕は御岳に馴染みがありましたが、妻にとっては不便なく暮らせるかどうかが重要だろうと思いました。物件を見つけては、駅からの距離や坂道の有無、周辺にスーパーマーケットや飲食店がどのくらいあるかなど、実際の生活をイメージしながら街を見ていきました」。
多摩川沿いのなかでも青梅に決めた理由の一つが、ラフティングができる御岳へのアクセスの良さだった。「御岳にはずっと通っていたので、ここに来やすい場所に住めたらいいなと思っていました。移住というより、都内で少し引っ越したくらいの感覚でした」。
多摩川沿いにはほかにも候補となるエリアがある。しかし、ラフティングを中心としたリバーアクティビティへのアクセスの良さを考えたとき、関東圏で御岳以上の場所はない、と貴元さんは言う。「電車で来ることができ、駅を降りたらすぐに多摩川へボートを浮かべることができます。しかも、ここ御岳エリアはオリンピアンなど、昔からトップ選手が練習する場所としても知られています。こんな贅沢な場所はありません」。
そうしてふたりは、2021年から青梅市新町での暮らしをスタートさせた。

妻の亜矢子さんも、青梅での暮らしに満足しているという。羽村市の歯科医院で働きながら、日常生活は主に新町周辺で過ごしている。「スーパーもあるし、駅も近いので生活はしやすいですね。立川に行くこともありますが、近所にもおいしいお店があるので困りません。青梅は都心にも出やすいのが魅力のひとつですが、青梅に来てからはこちらのほうが気に入ってしまって、すっかり都心に出かけることは減りました」と笑う。
アウトドア派ではない亜矢子さんだが、川辺で過ごす時間は好きだという。貴元さんが練習するあいだ、河原で椅子を出し、水に足をつけながらのんびり過ごすこともある。「御岳橋の下に日陰ができる場所があって、そこが気に入っています。川の音を聞きながら過ごす時間は気持ちいいですね」。
都内から日帰りで訪れることができる御岳エリアは、多摩川のリバースポーツやボルダリングの拠点として知られ、近年は国内外から多くの人が訪れる場所になっている。「湿度が低い寒い時期はボルダリングを楽しむ人がいて、少しずつ暖かくなるとラフティングやカヌー、SUP、釣りを楽しむ人が増えてきます。一年を通して、自然とスポーツを愛する人が多摩川に集まる。その光景をうれしく感じています」と貴元さん。さまざまなアクティビティが共存し、訪れる人たちが譲り合いながら自然を楽しんでいる。

「川遊びを楽しむ人たちが帰ったあと、夕暮れにひとり静かに多摩川にボートを浮かべる時間が好きなんです。山に夕日が沈み始めると、すっと岩かげが伸びてきて。この場所に暮らしているからこそ出合える、多摩川のとっておきの瞬間ですね」と微笑む貴元さん。
現在、貴元さんはラフティングの競技にも取り組んでいる。スプリントやスラロームなど複数の種目で競うレースラフティングに挑み、その総合ポイントで順位が決まる競技だ。目標は、日本代表として世界選手権に出場すること。会社員として働きながら練習時間を確保するのは簡単ではないが、「社会人アスリート」として挑戦を続けている。
さらに将来は、自然体験を生かした新たな取り組みも思い描いている。「以前の会社の同僚たちを御岳に呼んで、ラフティングのあとにバーベキューをするイベントを開いたことがあります。自然の中で過ごすと、仕事で疲れている人もすごくリフレッシュできるんです」。自分がそうだったように、都会で働く人たちに自然の時間を届けたい——。多摩川の流れのそばで、貴元さんの新しい挑戦はこれからも続いていく。

増田 貴元 | IT企業 会社員
増田 亜矢子 | 歯科医院 受付
貴元さんは東京都出身の30代。IT企業でカスタマーサクセス業務に従事しながら、週末は多摩川でラフティングの練習やリバーガイドとして活動する社会人アスリート。学生時代に出合ったラフティングをきっかけに、御岳へ通い続けている。亜矢子さんは福島県出身の30代。羽村市の歯科医院で受付として働きながら、青梅での暮らしを楽しんでいる。自然が好きな人はもちろん、そうでない人にとっても、仕事とプライベートにほどよいメリハリが生まれる青梅での生活は魅力的だという。ふたりのお気に入りは御岳橋周辺。川の音を聞きながら、ゆったりと過ごす時間を大切にしている。
※取材:2026年3月